立ち読みコーナー

 

「session1電気ドリルの法則」を全文、こちらから試し読みできます。尚、書籍版は縦書きです。

 

1章 人はなぜ商品を購入するのか?

 

電気ドリルの法則

 

◆ビジネスの永遠の謎を紐解く

 

 さて、これからさっそく つのショートストーリーと、私の体験談や参考事例などを交えながらマーケティングについて学んでいただく。あなたがこの学びにより獲得できるのは基礎知識ではない。実戦で武器となるマーケティングの生きたノウハウである。

 

 この第1章では「そもそも人はなぜ商品を購入するのか?」というビジネスの永遠の謎を紐解く。まずはこのショートストーリーを読んでいただきたい。

 

Short Story 1

 

 

  『99.9%のお客さまが欲しかったものとは』

 

 

Y氏は工具店の店長だ。小さな店ながら、ネジから大型の電動マルノコまで、さまざまな商品が売られている。

 

 ある日の朝、 Y氏の店に取引先のメーカーから新商品が届いた。最新式の電気ドリルだ。この電気ドリルは優れもので、 AC電源・ DC電源のいずれでも充電が可能、さらには USBからも充電ができる。搭載しているのは高容量のリチウムイオンバッテリー。約 時間の充電で 時間は回り続ける。先端には LEDライトも搭載。驚くことに完全防水仕様なので、水中での使用にも耐えられる。

 

「そうだ! 水槽をディスプレイして、この電気ドリルを沈めて展示しよう」 説明書を読んでいた Y氏は、さっそく店の奥から、以前に他の商品のデモンストレーションで使ったことがある水槽を取り出してきた。そして、それに水を満たした。

 

「お客さまはきっと、この水槽の中で光りながら回る電気ドリルを見て驚いてくれるに違いない」  Y氏はそう考えるとワクワクしてきた。最新式の電気ドリルを水槽に沈めようとしたまさにその時、自動ドアが開いた。そして、ひとりの男性が店に入ってきた。

 

「いらっしゃいませ」  Y氏は電気ドリルを手にしたまま声をかけた。その男性客は Y氏のところにまっすぐにやってきて、こういった。
「あの……。電気ドリルを買いたいんですが……」
「え? あ、はい。電気ドリルですね」
 Y氏は手に握りしめた電気ドリルと、男性客の顔を交互に見て、思わず微笑んだ。

 

 

 

 

 

◆お客さまが本当に欲しかったものとは?

 

 さて、ここであなたに質問がある。

 

【質問】「もし、あなたが Y氏なら、このお客さまに、これからどのようにセールスを進めるだろうか?」

 

 60秒間、このシチュエーションを思い浮かべて考えてみてほしい。

 

 マーケティングを学ぶためには難しい理論も専門用語も必要ない。シンプルな原理原則を学び、それを自らの事例に置き換えて考えてみる訓練を繰り返し行えば、マーケティングはすぐに理解できるようになる。

 

 あなたはもしかしたら、このシチュエーションを「最新式の電気ドリルが売れる絶好のチャンスだ」と思ってしまわなかっただろうか?昔の私もそう思ったに違いない。きっとそのお客さまに、「先ほど入荷したばかりの
この最新式の電気ドリルは、ご家庭のコンセントでも、車からも充電できて、パソコンからの充電も可能なんです。 時間の充電で 時間も強力に回り続けるんですよ。先端の LEDライトで暗闇でも作業ができますし、さらに驚くことに、この水槽の中をご覧ください。完全防水で水の中でも使えるんです。ぜひ、おひとついかがですか?」と、畳みかけていただろう。

 

 しかし、残念ながらこのアプローチは正しいとはいえない。なぜなら、Y氏の店に来たこの男性客は、本当は電気ドリルなんかほしいわけではないからだ。「そんな裏設定があったのか?」と思われたかもしれないが、そうではない。世界中のどこかの街の、どこかの工具店で、今まさに電気ドリルを購入しようとしているお客さまの、おそらく99.9%は同じように電気ドリルがほしいわけではないはずだ。

 

 では、お客さまが本当にほしかったものとはいったい何か? もし、あなたの隣に誰かいたら、ぜひ一緒に考えてみてもらいたい。本をただ読むだけの場合と比較して、学習定着率は飛躍的に向上する。

 

 実はこの質問の答えこそが「マーケティングとは何か?」を知る第一歩目になる。では、あなたの答えを聞かせてほしい。

 

【回答】「お客さまが本当に欲しかったものは             です」

 

 私が過去に主宰したセミナーに参加した人で、この問題に正解できた人は10人に1人、つまり正解率10 %の問題だ。さて、あなたはこの真実に辿り着けただろうか?
 この問題の正解は、「穴」だ。 お客さまが本当にほしかったものは「電気ドリル」ではなく「穴」である。お客さまは穴をあけたくて、電気ドリルという問題解決手段を買いに来た。これが真実だ。 電気ドリルそのものがほしい人も確かに存在する。それは、電気ドリルのずっしりとした重量感、独特なモーター音、そして、そのボディカラーがたまらなく大好きな、電気ドリルのマニアだ。だが、そんな人は 100人に 人いるだろうか? きっといないだろう。

 

◆商品はお客さまの問題解決のために存在する

 

 電気ドリルを工具店に購入しにきた 100人中ほぼ全員は、電気ドリルそのものではなく、本当は何らかの理由で「穴」をあけたくなり、その問題解決の手段として電気ドリルを買いにきたに過ぎない。
 すべての商品はお客さまの問題解決のために存在する。あなたの会社のお客さまも、おそらく何らかの問題を解決したくて、御社の商品やサービスを購入している。どうかこの事実を再認識してほしい。

 

 「商品=問題解決」である。だが、この事実を多くの会社は忘れてしまう。商品を売り始めたばかりの頃はちゃんと覚えていたはずなのに。そして、商品の本来の売り方も忘れてしまうのだ。 セールスマンはお客さまに商品の売り込みをする。一方的に商品の機能や価格の説明をする。先ほどの私のように。しかし、お客さまの立場に立ち、最適な商品を販売するためには、入荷したばかりの最新式の電気ドリルをその手に握っていたとしても、まずは落ち着いて、お客さまに「失礼ですが、何のために必要になられましたか? どのくらいの大きさの穴を、どこに開けたいのでしょうか?」と、確認すべきではないだろうか?

 

 このように質問すれば、そのお客さまにとっての最適な商品を提案できる(もしかしたら、その商品は電気ドリルではないかもしれない)。だが、ほとんどのセールスマンはこの質問をお客さまにはしない。 なぜか? 自分達が販売しているものがお客さまにとっての問題解決手段だという真実を忘れてしまっているからだ。

 

◆自分達が売ってきたものが本当は何かを忘れる

 

 数年前に、工具の卸売企業の創立記念集会で、講演を行わせていただいたことがある。その会場には約 100名の工具を製造販売している企業のトップの方々が招待されていた。私は内心ドキドキしながらこの「電気ドリルの法則」を話してみることにした。 「答えは『穴』です。電気ドリルそのものが欲しいのは電気ドリルマニアだけです。ほとんどすべてのお客さまは、穴を開けたくて電気ドリルという問題解決手段を買いにきた、というのが真実なんです」と、私がマイクに向かってそういうと、広い会場は静まり返ってしまった。だが、すぐに会場全体にどよめきのような静かな笑いが広がった。

 

 講演後の祝賀会で、年配の紳士から握手を求められた。その紳士は電気ドリルを製造販売されている会社の経営者だった。私の手をしっかりと握りしめたまま、こう仰られた。 「電気ドリルを販売するようになってずいぶんになりますが、今まで当社のお客さまが本当に欲しかったものが穴だったとは気づきませんでした」と相好を崩された。そして、その紳士は真剣な顔でこう続けてくれた。 「今日の講演を機会に、社に戻ったら『我々が販売しているものはお客さまの問題解決なんだ。原点に戻ってお客さまが本当に望んでいることをもう一度みんなで考えてみよう』
と全社員に話そうと思います」と仰っていただいた。 すべての人が、自分達の売っている商品が単なるモノやサービスなどではなく、お客さまの問題解決ツールなのだということを忘れてしまう。その真実を思い出そう。これだけで、あなたの会社のマーケティング力は飛躍的にステップアップする。